教員紹介
栗原 詩子
表紙画像:ノーマン・マクラレン『リズメティク Rhythmetic』より
ゼミのテーマ
音と映像がつくりだす時間
音楽や映画は、私たちの心を満たし、心を掴み、心を別の世界へ連れて行くような、大きな力を持っています。
ただ、どちらも「時間」の中で変化していくために、曖昧模糊とした性格を持っているのも事実です。たとえばカントは音楽のことを「食卓の仲間を楽しませるための無責任なおしゃべり」(『判断力批判』上巻44節)、理念とは切り離された「感覚の美的遊戯」(同51節(3))として説明しました。感覚的刺激という点では最高だけれども、理性という観点からは最低の芸術だというのです。またロラン・バルトは「映画には思考性がない」と語りました(『写真論』)。その根拠は、映画は写真と異なり「たえず対象をむさぼり」、「対象にしがみついて」いなければならないためだというものでした。
しかし今日、音楽学や映画学の発展によって、音楽については耳から伝わってくる刺激以外の側面を、映画については配役の好みやストーリー以外の側面を語るためのボキャブラリーや方法論が格段に増えてきています。ゼミナールの仲間と一緒に、色彩の選択、画面の構図、動きの方向や速度、サウンド、シーンの区切り・・・などを捉えるプロセスを積み重ね、こうしたボキャブラリーや方法論へのセンスを鍛えていきましょう。
履修希望科目
「哲学」、「美学・芸術学」、「倫理思想史」、「音楽史」、「美術史」、「音楽史」、「表象文化論」、「表象メディア論」
これまでの卒論テーマ
おおむね以下A〜Dの4つの方向があります。
A 映画やミュージッククリップの視覚的内容と聴覚的内容を記述して表現の奥行きをさぐるもの
- ビョンセにみる現代のダンスカルチャーの一断面 ――MV『Single Ladies』に焦点をあてて――
- ミュージカル映画『NINE』の魅力 ――『8 1/2』との比較を交えて――
- シュヴァンクマイエル『ファウスト』のオープニング・ショットの緻密さ
- アニメーション番組のオープニング映像がもつ導入的役割とその日本的特性
- ミュージカル『エリザベート』における死(Tod)の表象
- 高齢化社会における映画内の世代間対話
- タルコフスキー映画の「不可解さ」について――『ノスタルジア』を例に
- セカイ系としての『LA LA LAND』
B ある楽曲の分析例数点を比較して(いわゆる音楽史ではなく)演奏史を構成するもの
- フルートの演奏史
──WA.モーツァルトのフルート協奏曲第1番 卜長調K313を例に── - ロマン派音楽の演奏の多様性について
――ヴィエニャフスキ作曲『モスクワの思い出』の録音比較を通して――
C 映像分野や音響分野の運営・広告の戦略を分析するもの
- 映画芸術の受容文化の変遷
- 生活価値の変遷・時代徴表としてのスピーカー広告
- 習い事としての音楽教育の効能 ――脳の成長から教養まで――
- 観光映画としての『ローマの休日』(1953)における観光促進要素
- 日本ポピュラー音楽における洗脳 ――EXILEを例に――
- アニメ「デジモン」シリーズの商品連動性
- レトルト商品の注目度アップの手法とは――日清食品グループ商品のCMを中心に
D 服飾・着装について考察するもの
- ロリータファッションの武装性
- 女性の社会進出の描かれ方――日米のドラマ『グッド・ワイフ』を例に
- ピーターラビットシリーズにおける動物像と擬人表現のバランス
自己紹介
高校選びの時点では、男女雇用均等法が成立する直前だったので「手に職を!」の精神で、家政系高校の理数コースで過ごしました。
その後、音楽大学で西洋音楽史や音楽美学を学んで、いったん高校教員(音楽)になりましたが、30代半ばにアニメーション作家N.マクラレンの映像作品と出会い、映画学の領域でもモノを書くようになりました。2つの領域に共通するのは、対象を「時間表象」として扱う点です。
人生は表象ではありませんが、ここ1年ほど、人生の時間、つまり「老い方」に関心をもつようになりました。50代を目前にし、自分がこれからどう老いていきたいかが気になるからかもしれません。理想像は絶えず揺れます。故・樹木希林のような質素でロックな婆さまと、『トリック』の強欲書道家・山田里見の間で、大揺れしています。
課外活動団体の中で、「河鹿ギターアンサンブル」「演劇部」のほか、「フランス語バイブルクラス」の一員です。
読書案内
■M.マクルーハン『メディア論──人間の拡張の諸相』(Marshall McLuhan, Understanding media : the extensions of man, McGraw-Hill, 1964)栗原裕・河本仲聖訳、みすず書房、1987
■R.シャルチエ『フランス革命の文化的起源』(Roger Chartier, Les origines culturelles de la Révolution française, Seuil, 1990)松浦義弘訳、岩波書店、1999
その他、私が関わった出版物をざっとあげます。(表紙画像をクリックするとAmazonに飛びます)
おすすめサイト
1) 西南学院大学図書館 学術ポータル http://www.seinan-gu.ac.jp/library/portal/index.html
思想家バシュラールは「天国は図書館の中にある」と言いました。西南学院大学図書館学術ポータルは、バーチャルデータながら、これもまた天国の一角をなしています。
2) English Central https://ja.englishcentral.com/browse/videos
無料で10,000本の動画学習が可能です。
3) 留学せずにフランス語をTV5MONDEで習得 app/id1482250598
EnglishCentralのフランス語版といってもよいでしょう。iOSのアプリ上で、フランスの放送局TV5の動画を使った大量の練習問題で学習できます。
4) 雑誌『美学』 https://www.jstage.jst.go.jp/browse/bigaku/-char/ja/
美学会の既刊論文をPDFで読むことができます。
5) カナダ国立映画制作庁のサイト https://www.nfb.ca/directors/norman-mclaren/
リンク先には私の好きなノーマン・マクラレンの作品がリストアップされています。