研究旅行奨励制度実施報告
2024年 報告一覧
多文化社会における「マイノリティ」の表象の在り方
本研究旅行の目的は、移民国家の代表ともいえるアメリカ合衆国の首都、ワシントンD.C.にある国立博物館や民間からの寄付で設立された博物館をめぐり、エスニック・マイノリティ(以下「マイノリティ」)の歴史文化がどのように表象されているかを調査することである。
アメリカ国立歴史博物館では、アメリカ国内外に対してアピールする「正式なアメリカ史」を、国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館や国立アメリカ・インディアン博物館といった特定のマイノリティに焦点を当てた「エスニック博物館」においては、国としての表象の在り方を調査した。
これらの国立博物館の設立の背景には、20世紀後半まで実社会だけではなく博物館の世界においても、マイノリティの存在が無視・歪曲されていたという歴史的事実がある。それに伴い、白人支配層が伝統的に主導してきた博物館では、マイノリティに対して「劣等」「野蛮」のイメージを想起させる展示を行ってきた経緯がある。これを踏まえ、現在では国立博物館という「公式の場」において、マイノリティの存在がアメリカ史の中にどのように位置づけられ、またどのように表象されているのかについて調査した。
これに加え、同じくワシントンDCにあるホロコースト記念博物館での展示調査を通じて、アメリカ合衆国におけるユダヤ人理解についても考えを深めた。最近のパレスチナ情勢を巡り抗議運動が盛り上がる中で、世界最大のユダヤ人人口を抱えるアメリカ合衆国において、その歴史的理解を巡る展示のあり方を考えることは、本研究旅行の目的に十分に合致するものといえよう。
昭和レトロの比較研究
近年、「昭和レトロ」が流行しており、それは昭和時代を生きていない若者にも親しまれている。そして、昭和時代の情景を再現した観光地やテーマパークは日本各地に存在し、多くの人々がそこに訪れている。
昭和をコンセプトに設立した施設は大きく分けて二つの特徴に分けられる。一つ目は、歴史的な建築物などが何もない状態から昭和時代の舞台を再現し、人を集客することを目的とする商業施設、二つ目は、歴史的・文化的価値のある建築物や展示品を保存・展示・継承することを目的とする博物館及び文化施設である。
本研究の目的は、それぞれの施設の特徴や建築物、展示品を調査・分析し、屋内施設・屋外施設での違いなど、あらゆる点で比較することで、同じ「昭和」を形成していった中で、なぜ差異が生じたのかについて考察することである。また、施設にどういった工夫が施されているのかを明らかにしつつ、訪れる人々が昭和時代の何に魅力を感じているのかについても考察する。
私たちは難民支援とどう関われるのか ~日韓比較を通じて韓国でのNPO団体・pNanの方々から学ぶ~
他国に避難してきた人を難民だと判断するかしないかの難民認定は、本来は事実の認定法律の枠組みによる判断においてのみ行われるべきだが、実際には各国の政治的な判断によって、その基準などが変えられることが実状である。つまり絶対的な基準はなく、人道と政治の狭間で揺れ動き、時代によって、また国によって変わることがあるのだ。そんなとき、政府では救いきれない難民に様々な方法で支援をしているNPO団体が様々な国にある。そうした団体のひとつpNan(在ソウル)を訪問し、支援方法やその範囲について学びたい。
私は日本の大村入管を訪れた時、自分の無力さを突き付けられた。難民支援をしていく中で、その様なことを経験すると思うが、そのときに職員の方はどのように考えるのか。難民支援を使命として働いている方の生の声を聴きたい。そして自分で深く考え、今後の研究の参考にしたいと考える。