教員紹介

西村 将洋

ゼミのテーマ

近現代日本の文学と文化に関する研究

このゼミでは、日本の明治期から現代までの時代を対象として、文学作品や図像、映像、造形、音楽などについて考えます。
また明治期以後の異文化交流史に関する研究も重要なテーマとして位置づけています。

ゼミの紹介

1年次:物語分析の基礎講座(科目名/基礎演習)
年度によって異なりますが、樋口一葉の小説やスタジオ・ジブリの長編アニメーションを扱います。前者は主にナラトロジーや明治の文芸と文化について、後者はリアリズムとファンタジーの相克や環境問題について考えます。

2年次:文化批評の基礎講座(科目名/導入演習)
ゼミ生の要望を聴きながら様々な文化批評(論文)を選んで精読し、文章の書き方や読解能力の向上を目指します。ごく一部ですが、例えばゼミ生はこんな論文を読んでいます。

  • [文学] 坂上秋成「〈現地語〉文学の華やぎを見つめて:水村美苗への応答」
  • [美術] 松井みどり「異次元への窓、連想の糸:中村佑介の絵画とアジアン・カンフー・ジェネレーション」
  • [映画] 河野真理恵「からっぽの女の子が〈映え〉な世界でキラキラしてる。:『ホットギミックガールミーツボーイ』論」
  • [演劇] 筒井晴香「二・五次元の自律性とキャスト=キャラクター」
  • [マンガ] 杉本省吾「郊外化されたラブストーリー:岡崎京子『ジオラマボーイ・パノラマガール』」
  • [現代文化] 西森路代「イケメンはなぜ怖いのか」
  • [文化交流] 小田切博「「クールジャパン」と「MANGA」」

3年次:資料調査と考察(科目名/専門演習)
前期は、村上春樹の小説を題材としながら、文芸批評理論を学びます。
後期は、各自のテーマにそって先行研究のデータベース化を行うとともに、研究の全体像を把握し、研究動向を考察していきます。

4年次:専門研究の実践(科目名/卒論演習)
各自の研究テーマにそって年間計画を作成するとともに、口頭発表を行います。その際、ゼミでのディスカッションを通じてお互いの研究の「質」を高めあっていきます。
4年間の総仕上げが卒業論文の執筆です。

履修希望科目

私が担当している授業の内容を簡単に紹介します。

■1年次以上

「日本文学A(3)」1884年から1888年にかけてドイツへ留学した森鴎外に注目しながら、異文化体験が言語表現や思想、政治観に与えたインパクトを考えます。「日本文学B(3)」1900年から1902年にかけてイギリスへ留学した夏目漱石に注目しながら、異文化体験が言語表現や美術観、思想に与えたインパクトを考えます。

■2年次以上

「日本文化論A」明治期の日本文化論を異文化交流史という観点から考察します。主に、志賀重昂や新渡戸稲造、岡倉天心らの著作を扱います。「日本文化論B」明治期から昭和期にかけての日本文化論を現代のポップカルチャーと結びつけて考察します。主に扱うのは柳田国男や折口信夫による民俗学です。「日本文学論A」1990年代から2000年代にかけて発表された現代小説を取り上げながら、言語表現の基本的な「精読」の方法を学びます。「日本文学論B」明治から現代までの文学史を、同時期のメディアの歴史と結びつけながら、言語表現がどのように変化したのかを考察します。 ゼミで必須とする外国語はありません。しかし、各受講生が自分の興味のある外国語を積極的に学ぶことで、日本と諸外国との結びつきを主体的に考え、ゼミを通じて情報発信していくことを希望します。
 加えて、日本以外の地域の文化に対しても、積極的に眼を向けてほしいです。

これまでの卒論テーマ

参考までに、今までのゼミ生の卒業論文のタイトル(のごく一部)を紹介します。

文学

  • 「WEB小説とはなにか?──ケータイ小説でもライトノベルでもない新しい文学」
     →2017年度、国際文化学部の卒業論文表彰制度で優秀賞を受賞
  • 「まなざしの呪縛 流転する自我──芥川龍之介「鼻」論」
     →2015年度、国際文化学部の卒業論文表彰制度で最優秀賞を受賞
  • 「村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』論──視覚社会日本で失われつつある「個人」を巡って」
     →2011年度、国際文化学部の卒業論文表彰制度で優秀賞を受賞

美術

  • 「リアルとファンタジーをめぐって──宮沢賢治・清川あさみの絵本『銀河鉄道の夜』の可能性」
     →2013年度、国際文化学部の卒業論文表彰制度で優秀賞を受賞
  • 「女性アーティストにおける自己の表象」
    (西村注、画家の名知聡子を中心として、映像作家の蜷川美花や、美術家の清川あさみの作品を分析した興味深い卒論です)
    →2010年度、国際文化学部の卒業論文表彰制度で優秀賞を受賞
  • 「現代文化の発信の形──ジャポニスムから村上隆まで」

映画/アニメ

  • 「岩井俊二『リリイ・シュシュのすべて』論──多声性・時間・追憶をめぐって」
      →2008年度、国際文化学部の卒業論文表彰制度で優秀賞を受賞
  • 「蜷川実花が教えてくれること──『ヘルタースケルター』からみる女性の自意識」
  • 「細田守が描き出す、画面の中の世界──『おおかみこどもの雨と雪』近くて遠い現代家族像」

マンガ

  • 「萩尾望都作品における「双子」の表象──ラカンの鏡像段階論をたよりに」
  • 「〈ともだち〉誕生──『20世紀少年』における〈万博〉の影の中で」
  • 「戦う美少女の欲望──『ジョジョの奇妙な冒険』」第5シリーズヒロイン、トリシュ・ウナを事例に」

現代文化

  • 「椎名林檎TVCM論──映像×音楽×広告の融合」
  • 「二・五次元ミュージカル──新たな演劇ジャンルとしての台頭」
  • 「日本人が生み出すシェイクスピア:『NINAGAWAマクベス』が壊したもの」

自己紹介

兵庫県生まれ。もともと1930年代のモダニズムとナショナリズムというテーマで研究を始めましたが、現在は〈日本で生まれた後で、日本から離れた場所に行く〉というテーマに関心があります。離れた場所に行くのは、ヒトの場合もありますし、モノや作品、美意識や思想の場合も考えられます。
具体的な研究内容としては、第二次大戦以前の日本人による異文化体験(ロンドン、ベルリン、パリ、シベリア、満洲、朝鮮半島、上海)や、明治以降に日本国外で出版された日本文化論(谷崎潤一郎や岡倉天心らの著作)について、調査と分析を行っています。
さらに詳しい研究内容については、データベース型研究者総覧「researchmap」の私のページをご参照下さい。

読書案内

明治開国以後の日本人による海外体験に関する研究書として、上海、ロンドン、パリ、ベルリンに滞在した日本人に関する書籍を紹介します(全て西南学院大学の図書館に所蔵されています)。★をつけた本には西村も執筆者として参加しています。

上海

和田博文、徐静波、西村将洋、宮内淳子、和田桂子編『共同研究 上海の日本人社会とメディア 1870-1945』(岩波書店、2014年)[解説]日清・日露という二つの対外戦争を経て、上海の在留日本人は急速に増加し、1925年には2万人に達する。旅館や料理、理髪、雑貨など、生活密着型職業への従事者が多く、日本人用の生活必需品が入手できる都市となった。現地発行の新聞・雑誌を調査し、中国人研究者の協力を得て、日本人社会の全貌と変遷を明らかにする。写真資料多数。

ロンドン

和田博文、真銅正宏、西村将洋、宮内淳子、和田桂子編『言語都市・ロンドン 1861-194』(藤原書店、2009年)[解説]「日の没さぬ国」大英帝国の首都を、近代の日本人はどのように体験したのか。森有礼、夏目漱石、岡本一平・かの子、野上弥生子、長谷川如是閑、富本憲吉、矢内原忠雄など30人のロンドン体験と、80項目の「ロンドン事典」、多数の地図と約500点の図版を駆使して、近代日本人のロンドン体験の全体像を描き切った決定版。

パリ

和田博文、真銅正宏、竹松良明、宮内淳子、和田桂子編『パリ・日本人の心象地図 1867-1945』(藤原書店、2004年)[解説]従来のパリ・イメージを一新する、全く新しい試み。明治・大正・昭和前期にパリに生きた日本人60余人の住所と、約100の重要なスポットを手がかりにして、日本人のパリ体験を明らかにする。写真・図版200点余、地図10枚を収録。

ベルリン

和田博文、真銅正宏、西村将洋、宮内淳子、和田佳子編『言語都市・ベルリン1861-1945』(藤原書店、2006年)[解説]プロイセンからドイツ帝国、ワイマール共和国、そしてナチス・ドイツ。激動の近代史を通じて、「学都」として、「モダニズム」の淵源として、日本人の「知」に圧倒的な影響を及ぼした都市ベルリン。森鴎外、巌谷小波、寺田寅彦、山田耕筰、村山知義、阿部次郎、千田是也、和辻哲郎ら25人の体験と、この都市を象徴する50のスポット、在ベルリン日本人発行の雑誌から、日本人の「ベルリン」を立体的に描出する。写真資料多数。

おすすめサイト

国立国会図書館、電子展示会
https://www.ndl.go.jp/jp/d_exhibitions/index.html
国立国会図書館が運営するデジタルアーカイブ。歴史的にも貴重で、なおかつ興味深い資料が電子展示されています。
たとえば、日本人と異文化交流というテーマに限定しても、以下のような展示が公開されています。

・「近代日本とフランス:憧れ、出会い、交流」
https://www.ndl.go.jp/france/index.html
日本とフランスの150年にわたる交流の歴史をたどります。

・「博覧会─近代技術の展示場」
https://www.ndl.go.jp/exposition/index.html
19世紀後半の万国博覧会と、明治維新後の日本で行われた内国勧業博覧会を通し、当時の技術・産業の発展を紹介します。

・「江戸時代の日蘭交流」
https://www.ndl.go.jp/nichiran/index.html
日本とオランダの交流の歴史を2部構成で紹介します。

・「ブラジル移民の100年」
https://www.ndl.go.jp/brasil/index.html
国会図書館館所蔵の移民関係資料を中心に、写真や文書・手紙等の原資料、当時の新聞記事などを紹介します。

その他にも、「史料にみる日本の近代 開国から講和まで100年の軌跡」「描かれた動物・植物 江戸時代の博物誌」「インキュナブラ 西洋印刷術の黎明」「近代日本人の肖像」「蔵書印の世界」「日本国憲法の誕生」など、この電子展示会には多彩なコンテンツがそろっています。どれも映像的にも優れていて、知的好奇心を触発する内容です。     

関連リンク