教員紹介

押尾 高志

表紙画像:グラナダのアルハンブラ宮殿からの眺望

ゼミのテーマ

西地中海地域の歴史と文化

 地中海地域は、ヨーロッパと中東・アフリカという諸地域から構成されています。とくにイタリア半島以西の西地中海地域では、ジブラルタル海峡やシチリア島を挟んで、宗教や言語、文化の面で「南」と「北」に分断されているとみなされがちです。このゼミでは、そういった固定観念を一度脇において、西地中海を取り巻く諸地域がお互いを「隣人」としてどのように認識し、ときに交流しときに相争ってきたのかを、歴史学的視点から考えることを目的としています。

ゼミの紹介

 私の専攻は歴史学です。具体的には、16−17世紀のスペイン・モロッコを中心とした西地中海地域におけるイスラーム・キリスト教間の改宗者のアイデンティや社会について興味を持って研究を進めていて、特にモリスコと呼ばれるキリスト教への改宗ムスリムを主な研究対象としています。改宗という行為・現象は個人の信条や、ある集団の宗教的帰属の変更だけではなく、言語や文化・習慣など社会全体の変化に関わるもので、単なる過去の出来事ではなく、アクチュアリティ(現在性)を持つテーマです。

マドリード市庁舎(スペイン)
マドリード市庁舎(スペイン)

 一年次の『基礎演習』では、主に山川出版社の世界史リブレットを教材として、文献収集や資料分析の方法、研究計画の立て方、レポート・論文の書き方、発表の仕方などの基礎について指導します。世界史リブレットは様々なテーマを網羅しているシリーズですので、ゼミの課題のためだけでなく、自身の興味関心のおもむくままに積極的に手にとって読んでみて下さい。二年次以降のゼミでは、地中海地域の歴史や文化、宗教、言語を取り扱った研究書の講読や内容に関する議論を通じて、皆さんと一緒に様々な研究テーマについて取り組んで行きたいと思います。日本語文献だけではなく、外国語文献(主に英語、スペイン語)も講読する予定です。

 卒業論文のテーマは地中海地域(もちろん地中海南岸を含みます)の歴史や文化に関わるものを自由に設定できますが、英語以外にも自分が研究したい地域の主要言語(スペイン語やフランス語、可能であればアラビア語やトルコ語など)を積極的に学んでおくことをおすすめします。

履修希望科目

 「文化のダイナミズム」、「ヨーロッパ・地中海文化史」、「イタリア・地中海文化論」、「ヨーロッパ文学論」など、ヨーロッパ・地中海地域に関わる科目を積極的に受講することをおすすめします。「私は人間である。人間に関わることで自分に無縁なものは何もない」という言葉が示すとおり、様々な科目を受講して自分自身の知見を広げることを試みて下さい。

 語学については、スペイン語を学習済であることは、ゼミ履修の必須条件ではありません。ただし、地中海地域の歴史や文化を研究することを希望する以上、各地域で用いられている主要言語を学んでおくことは重要です。言語は、自分が見たことのない世界に足を踏み入れるための「鍵」となるものですので、英語以外の第二・第三外国語も積極的に学びましょう。

自己紹介

 生まれも育ちも千葉県です。弁護士を志して法学科に入ったのですが、2006年にスペインのアルカラ・デ・エナーレスに語学研修へ行ったことがきっかけとなって、スペインの魅力に取り憑かれ、大学院から歴史学研究の道へ進みました。研究テーマがイベリア半島と北アフリカを越境するものだったため、2014年にはスペインではなく、ジブラルタル海峡の対岸のモロッコで2年間スペイン語とアラビア語がちゃんぽんの留学生活を送りました。趣味は料理と映画鑑賞です。料理は作るのも食べるのも好きで、家庭料理からスペイン・モロッコ料理まで、美味しいと思ったものは何でも挑戦します。映画も、白黒映画からアニメまで何でも見ます。最近は、動画配信サービスが発達してマイナーな海外映画も見られるようになってとても嬉しいです。

読書案内

■佐藤正幸『世界史における時間(世界史リブレット)』(山川出版社、2009年)
私たちが普段何気なく使っている西暦という暦が歴史的にどのように変遷し、現在のように共通暦(Common Era)として確立されていったのかを論じたもの。特に、各時代の学者たちが現実の歴史と聖書の記述内容の「すり合わせ」に頭を悩ませていた箇所は面白い。

■スサエタ社編『スペイン修道院の食卓: 歴史とレシピ』(原書房、2016年)
スペインにある59の修道院の歴史とそれぞれの修道院に伝わる114の料理のレシピを写真付きで解説している。それぞれの時代にどのような料理が、どのような食材と手順を用いて作られていたかは歴史学研究の重要なテーマの一つ。なお、同様の本に丸山久美『バスクの修道女 日々の献立』もあり、こちらもおすすめ。

■立石博高・内村俊太編『スペインの歴史を知るための50章』(明石書店、2016年)
古代から現代までのスペイン史全般をコンパクトに扱っている。『〜の歴史を知るための〜章』は明石書店から出版されているシリーズ本で、他に英独仏、ポーランド、カナダ、アメリカ、中国などがある。スペインに限らず、自分の興味のある国や地域を手にとってみてほしい。

■モフセン・マフマルバフ『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(現代企画室、2001年)
センセーショナルなタイトルで有名な一冊。映画『カンダハール』で有名な映画監督が現代アフガニスタンの危機的状況や、ターリバーン、女性の抑圧、国際社会の無関心などについて語ったスピーチや書簡、レポートをまとめたもの。タイトルに含まれる「恥辱」の示す意味は読めばわかる。マフマルバフ作品のなかで私のおすすめは『パンと植木鉢』。

おすすめサイト

■スペイン国立図書館のデジタル・アーカイブ
http://www.bne.es/es/Catalogos/BibliotecaDigitalHispanica/Inicio/index.html
スペイン国立図書館が所蔵する史料(文献や写真、絵画など)を閲覧・ダウンロードできるサイト。一応英語対応だが、肝心な部分はスペイン語のままのことが多い。

■フランス国立図書館のデジタル・アーカイブ
https://gallica.bnf.fr/accueil/fr/content/accueil-fr?mode=desktop
同上図書館所蔵の史料のデジタル版が閲覧・ダウンロード可能。英語対応のレベルはスペイン国立図書館と同レベル。

■スペイン史学会 http://www.sjhe.org/
サイト内の「文献目録」では、日本で出版されたスペイン史関連の研究文献の検索ができる(フリーワード検索可)。

■日本中東学会 http://www.james1985.org/
サイト内の「日本における中東研究文献データベース」で、中東や北アフリカ、イスラームに広く関係する研究文献について検索ができる。

■『HISPÁNICA』日本イスパニヤ学会 http://www.gakkai.ne.jp/ajh/revista/contenidos.html
機関誌HISPÁNICAの目次検索およびダウンロード(J-STAGE経由)が可能。

関連リンク

■バイユー・タペストリー美術館 https://www.bayeuxmuseum.com/en/the-bayeux-tapestry/discover-the-bayeux-tapestry/explore-online/
1066年のノルマン・コンクエストを描写した「バイユーのタペストリー」と呼ばれる刺繍作品を高解像度で見られる(世界史の資料集にも出てくる、はず)。最近は様々な史料(文献や絵画、写真、映像など)がオンラインで閲覧できるので、自分でも調べてみると良い。

■Amaral, “El universo sobre mi” https://youtu.be/NFary9e9jo0
お気に入りのスペインのポップ・ロックグループの歌(少し古い)。タイトルの意味は、私を取り巻く世界(宇宙)。この歌に限らず、歌詞のメッセージ性がとても素敵なグループ。この歌は特に元気がないときに聞く。他にも、La Oreja de Van GoghやAlvaro Solerなどもおすすめ。