教員紹介

山田 順

ゼミのテーマ

地中海世界の都市と文化

地中海世界における都市とその文化について、歴史的・考古学的・美術史的視点から学びながら、地中海文化の多様性とその精神性について理解を深める。

ゼミの紹介

近年,イタリア,スペイン,ギリシア,北アフリカなど,地中海世界の都市とその文化の魅力が再認識されている。地中海沿岸の主要都市の多くは,古代から中世にその起源をもち,独自の高度で豊かな都市文化を開花させたが,やがて,徐々にアルプスの北側の「ヨーロッパ」にその主役の座を奪われてしまった。さらに,産業革命や資本主義の形成を経た近代ヨーロッパの「繁栄の歴史」のもとでは,もはや地中海世界は,常に後進的でマイナーな世界という位置づけに甘んじてきた。

しかし,地球規模の環境破壊や複雑な地域・民族紛争,国際的テロリズムの発生を目の当たりにする今日,これまでの「ヨーロッパ」やアメリカの「繁栄」の質と意味が大きく問われている。「地中海」という国家や国境の概念を越えた海洋ネットワークのダイナミズムのなかで育まれた都市文化,あるいは,そこで暮らしてきた人々のライフスタイルや人生観,そして,地域共同体や家族関係へのこだわりなど,地中海世界特有の社会や文化に,我々は多くを学ぶべきではないか。

そのような問題意識のもとに,このゼミでは,様々な民族・国家・宗教が交錯する地中海文化の多様性と精神性について深く学びながら,同時に,日本社会との比較の中でその現代的意味についても考えたい。

履修希望科目

「文化のダイナミズムI (都市論)」 「ヨーロッパ・地中海文化史」 「イタリア・地中海文化論」 「イタリア語A/B」(初級クラス)「イタリア語C/D」(中級クラス) 「専門イタリア語」(専門講読)などは必ず履修してほしい。その他には,西洋古典,西洋哲学思想,美術史,文化人類学,考古学関連などの科目履修が望ましい。本学で開講されているイタリア語は残念ながら未だ正規の語学科目ではない(現在準備中)が,このゼミを受講する学生は,必ず,上記のイタリア語科目を履修しながら,または自ら継続学習することで,イタリア語に習熟することが求められる。

これまでの卒論テーマ

原則として,古代から中世,ルネサンスまでのイタリアを中心とした地中海世界の文化・歴史に関するもの。特に,文献学的資料のほかに,現地調査(フィールドワーク)を取り入れた,考古学,美術史,建築史,民衆文化史などのテーマが望ましい。学部主催「旅行奨励制度」などを活用し,現地調査を行ってほしい(これまでの実施例:「イタリア・サルデニア島におけるキリスト教聖堂(5世紀)発掘調査隊参加」(約4週間),「イタリア楽器職人の町クレモナのヴァイオリン工房調査」,「イタリアの古楽器調査」など)。これまでの卒論テーマ例:「古代ローマのミトラス教研究」,「古代ローマ壁画にみる古楽器」,「地中海世界の『庭園』表象」,「イタリア都市空間としての広場」「メディチ家のヴィッラ研究」。

自己紹介

専門はイタリアの初期キリスト教考古学。キリスト教の遺跡から出土する壁画や彫刻,碑文を研究している。紆余曲折の人生勉強 (学びの場を求めて放浪,多重アルバイト生活,突然の病と死の宣告,奇跡的回復と療養生活,学問の師との出会い) を経てこの研究分野に辿り着く。30歳でローマに渡り,「死者のための地下都市」といわれるキリスト教地下墓所(カタコンベ)に魅せられ,「死の文化」から歴史を紐解く「死者の代弁者」となることを決意した (「霊媒師」になるという意味ではない)。墓の研究に寝食忘れてミイラ化しそうだったので,37歳で帰国。その後,「地中海依存症候群」(地中海の陽光や文化の香りが恋しくなる厄介な病)を発症し現在に至る(治療のためには頻繁に渡伊が必要)。好きな言葉:「生くるときは生き,死ぬるときは死ねばよく候」,「なんくるないさ~」 好きな色:地中海ブルー,好きな食べ物:スカンピ(=地中海手長海老)のソテー,きんぴらゴボウ(ピリリと辛め)。

読書案内

F. ブローデル(浜名優美訳)
『地中海(I~X)』(藤原セレクション:藤原書店 1999)
地中海総論的書。上記廉価版は全十巻。膨大な史料を駆使し、地中海世界の全貌と魅力を自然・社会・政治から描いた名著。自然と人間の営みが国家という概念を越えた舞台(地中海)で展開するものであることを認識させる。好きな巻から読み進めればよい。

陣内秀信
『都市の地中海-光と海のトポスを訪ねて』(NTT出版 1995)
都市論からみた地中海世界。ヴェネツィア、グラナダ、マラケシュ、イスタンブールなど都市の歴史、構造、機能を手掛かりにそこに具現する地中海文化の層を読み解く。

辻佐保子
『天使の舞いおりるところ』(岩波書店 1990)
美術史からみた地中海世界。中世の写本挿絵・教会壁画・モザイク研究を通して、地中海世界に生きた人々のキリスト教信仰、世界観・死生観を読み解く。地中海世界の伝統的様式や独特の感性を学ぶことができる。

その他、古代末期から中世にかけての死生観や精神史については以下の本がお勧め。

P. ギアリ(杉崎泰一郎訳)
『死者と生きる中世-ヨーロッパ封建社会における死生観の変遷』(白水社 1999)

J. ルゴフ(池上俊一訳)
『中世の夢』(名古屋大学出版局 1992)

おすすめサイト

カタコンベ壁画発見記事(共同ニュース)
http://www.47news.jp/CN/200909/CN2009093001000050.html

e-avanti 働く女性を応援するコミュニケーションサイト
http://www.e-avanti.com/fuku/semi/item/10447

ヴァチカン図書館公式サイト
http://www.vaticanlibrary.va/

教皇庁(ヴァチカン)立考古学研究所公式サイト
http://www.catacombe.roma.it/

ヴァチカン博物館公式サイト
http://mv.vatican.va/

関連リンク