教員紹介

二藤 拓人

ゼミのテーマ

ドイツ語圏の文学・文化・思想

近現代のドイツ語圏における文学やそれを取り巻く文化・思想・芸術について、テクストに即した厳密な理解に基づいて、文献学・概念史・メディア文化学などの観点から多角的に探究する。

ゼミの紹介

■1年次「基礎演習」
西洋文化史ないしメディア史に関わる(面白そうな)基礎文献を講読します。

■2年次「導入演習」および3年次「専門演習」
ドイツ語で書かれた古典的な文学作品、あるいは広くヨーロッパの文化・思想に関わる論文・専門書から、日本語訳のテクストを選定し、これを講読します。(*課題テクストは年度によって異なるが、例えばゲーテ『ファウスト』やニーチェ『ツァラトゥストラ』など)

■4年次「卒論演習」、「卒業論文」
広くドイツに関係する文学・思想、文化事象であれば、卒論の研究テーマは自由に設定可能です。もちろん、ゼミで講読した作品を対象にした研究論文も歓迎です。

■テクストを緻密に読み、ドイツ語で思考する
 このゼミは、近現代のドイツ語圏の文学・文化・思想を専門にします。受講者には、疑問に思った箇所や面白かった場面に関して、そこで扱われる言葉・概念が「語源的に何に由来し、いかなる意味をもつか?」それが「どのような歴史的思想的な事柄・事象と関連しうるか?」といった問いと徹底的に向き合ってもらいます。授業ではこうした問題提起について討論した上で、テクストの内容を精確に吟味していく〈文献学的〉読解の方法を指南したり、ヨーロッパ文化史の文脈や概念史的あるいはメディア史的な背景を参照したりしながら、テクストの批判的かつ多角的な読み方の体得を目指します。こうした読解のアプローチは、20世紀以降の文学・文化研究に欠かせない基本スキルでもあります。一行一句にこだわり、それらをいわばスローモーションで読むことでしか体験できない、文献講読の魅力(=文学・芸術鑑賞の魅力)に触れながら、「テクストという異文化」と交流し理解を深め、西洋の思想と文化の中核に迫ることが、このゼミでの一番の目標です。
 ドイツ語は他の言語に比べて学術言語としての地位が高く、抽象的で複雑な事象を、コンパクトでかつ明瞭な概念で言い表せることが大きな特徴です。この特徴は近代の詩・文学や哲学だけでなく、現代の新聞記事においても顕著に確認でき、ドイツ語による思考は、日本語のそれ以上に明確な理解を伴うことも少なくありません。ゼミでは翻訳を使いますが、こうしたドイツ語の語感を直に味わうために、原文を紐解くことができれば、対象テクストの魅力は何十倍にも引き出されることは間違いありません。

履修希望科目

 「ドイツ語」の初級、中級、上級、「専門ドイツ語」「ヨーロッパ文学論」、「ドイツ文化論」、「文化のダイナミズム」「文化コース基礎論」などは漏れなく履修して欲しいところです。その他は各々の関心に応じた履修で構いませんが、表象文化論、表象メディア論、地中海文化論、芸術文化史、哲学、美学・芸術学、西洋文学、宗教学、美術史あたりが、このゼミに広い意味で関連する科目でしょう。
 このゼミは、受講生がドイツ語科目を履修していることを前提にして進み、重要な箇所について、適宜ドイツ語の原文を参照します。1年次から、できるだけの時間と手間をかけてドイツ語の習熟に努めて下さい。
 「複数の外国語を知らない者は自国語について何も分からない(Wer fremde Sprachen nicht kennt, weiß nichts von seiner eigenen)」とはゲーテの箴言ですが、異なる言語に触れることはそれ自体で、新しい世界や異文化を知ることに他ならず、自国の言語と文化を相対化し反省する機会にもなります。国際文化学部に入ったからには、とにかく第二・第三外国語の習得に力を注ぎましょう。

自己紹介

 埼玉県の新座市で育つ。大学・大学院を東京で過ごしながら、ジャズに没頭し、現代アートに魅了され、ポストモダン思想にかぶれた学部生活を送る。軽音楽サークルと、いわゆるインカレでモダンジャズ研究会に入り、某大学の学館で取り憑かれたようにサックスの練習に打ち込み、その帰りには音楽友達と飲んだり、古本屋を巡ったり、早稲田松竹や新文芸坐などのシネマ座で映画を観たりして過ごす。2011年の学部3年次から、1年間ドイツ・ベルリンに休学留学したときも、昼は文学・哲学の講義と演習に潜り、語学コースでドイツ語に励み、夜はサックスを持ってジャズ・バーやクラブでセッションという自由奔放な日々を楽しんだ。ドイツ人や現地の日本人のみならず、ドイツ語を「共通語」にして飲み明かしたスペイン、メキシコ、デンマーク、チェコ、トルコ、イギリス、フランス、韓国からの留学生との交流は忘れられない思い出で、今でも交友関係が続いている。留学中のゼメスター休みに、Interrail Passを使いバックパッカーでヨーロッパ一周旅行をしたのも今の自分の財産で、あれは体力がもつ20代の特権だった。(大学生活は5年間計画を基本にして、ぜひとも留学を!!)
 留学帰国後に、卒業論文の研究対象としてドイツ・初期ロマン派による共作『アテネーウム断章集』の薦めをうけ、ここにも「理解のできなさ」を本質とする芸術作品があると直観してからは、演奏活動の第一線!?から退き、この『断章集』作成を主導した批評家フリードリヒ・シュレーゲルを研究対象に、ドイツ文学専攻の大学院に進学。それ以来18、19世紀ドイツの文献資料や研究論文を渉猟する日々を送ってきた。2020年より、コロナ感染症流行の混乱とともに西南学院大学国際文化学部に赴任。
 専門はドイツ文学とメディア文化。大学院より今日まで、ロマン派の断片美学とシュレーゲルの断章表現の実践を軸に、一方で西洋美学や古典文献学、宗教・神話学、哲学史の伝統を、他方で1980年代以降のメディア美学・文化学や読書史、書字論あるいは編集文献学に関する理論言説を取り入れながら、研究領域と研究関心を広げている。 専門や研究に関する詳細は、以下のページを参照。https://researchmap.jp/tktnt
 趣味・好きなもの:Jazzとプログレ全般、ノラ・ジョーンズ、宮本浩次、最近はビリーアイリッシュとあいみょん。スポーツ観戦;特に欧州サッカー(全盛期のバルセロナ推し)、ボクシング(井上尚弥)、ゴルフ(全米・全英オープン)、テニス(ナダルかフェデラー)。映画鑑賞;ヌーヴェルヴァーグでも大衆娯楽映画でも。美術館巡り、最近はNetflix。博多ラーメン食べ比べ。

読書案内

ドイツ語圏の古典~近代文学系(わくわくする物語から怪奇譚、一癖も二癖もある難渋な断篇まで)

  • 阿部謹也『ハーメルンの笛吹き男』(ちくま文庫,1988)
  • レッシング『賢者ナータン』;『ラオコーン』(岩波文庫)
  • 『世界の名著 続7 ヘルダー ゲーテ』(中央公論社)
  • 園田宗人他訳『シュレーゲル兄弟』(国書刊行会,1990)*とくに「アテネーウム断章集」
  • E.T.A.ホフマン・S.フロイト著/種村季弘訳『砂男・無気味なもの』(河出文庫,1995)
  • クライスト/種村季弘訳『チリの地震 クライスト短篇集』(河出文庫,1996)
  • ユゴー著/榊原晃三訳『ライン河幻想紀行』(岩波文庫,1985)
  • シュテファン・ツワイク『マリー・アントワネット(上・下)』(岩波文庫,1980)
  • W.ベンヤミン『パサージュ論(全5巻)』(岩波文庫,1993-5)

ドイツ文化史・思想史系(長持ちする書物、必携の重要文献、とりあえず本棚に飾るところから)

  • M.マクルーハン『メディア論─人間の拡張の諸相』(みすず書房,1987)
  • W-J.オング『声の文化と文字の文化』(藤原書店,1991)
  • H.プレッサー『書物の本─西欧の書物と文化の歴史/書物の美学』(法政大学出版局,1973)
  • S.ウンゼルト『ゲーテと出版社─一つの書籍出版文化史』(法政大学出版局,2005)
  • フリードリヒ・キットラー『グラモフォン・フィルム・タイプライター』(筑摩書房,1999)
  • フリードリヒ・キットラー『ドラキュラの遺言─ソフトウェアなど存在しない』(産業図書,1998)
  • ヨッヘン・ヘーリッシュ『メディアの歴史─ビックバンからインターネットまで』(法政大学出版局,2017)
  • ロジャ・シャルティエ編『読むことの歴史』(大修館書店,2000)
  • 明星聖子・納富信留編『テクストとは何か─編集文献学入門』(慶応義塾大学出版会,2015)
  • アン・ブレア『情報爆発─初期近代ヨーロッパの情報管理術』(中央公論新社,2018)

その他(箸休めに面白く読める本)

  • ゲーテ『イタリア紀行(上・中・下)』(岩波文庫)
  • 『江戸川乱歩全集』(光文社文庫)
  • 奥泉光『ノヴァーリスの引用』(創元推理文庫)
  • 松本清張『聖獣配列(上・下)』(文春文庫)
  • カミュ『シーシュポスの神話』(新潮文庫)
  • ドナルド・D・パルマー著・絵/澤田直訳『サルトル』(ちくま学芸文庫)
  • 椹木野依『シミュレーショニズム』(ちくま学芸文庫)
  • 菊地成孔+大谷能生『M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究(上・下)』(河出文庫)

おすすめサイト

現代はインターネットで簡単に異文化体験ができる恵まれた時代です。有益で便利なドイツ語のサイトを紹介しますので積極的にアクセスしてみましょう。

  • tagesschau24:ドイツの一般的なニュース番組tagesschauのウェブサイト。「100秒でわかる時事ニュース」のリンクで、学部でのドイツ留学時代には、ノートPCのブラウザ・ホーム画面にして(分からなくても)毎日リスニングしていた。
  • Duden online:独独辞典dudenのオンライン検索サイト。
  • Wadoku:/Deutscher Wortschatz: / Leipzig Corpora Collection:ドイツ語作文の際に役立つ。それぞれ日々更新される和独辞典サイトとライプツィヒ大学が公開しているコーパスサイト。
  • Wörterbuchnetz:ドイツ語圏の各国・地域の方言辞典がネットワーク化されている。このサイトではグリム・ドイツ語辞典やアーデルング辞典、ゲーテ辞典をはじめとする、18世紀から19世紀の文学を読むには参照不可欠の辞典も一緒に横断検索できるため、超便利。
  • Projekt Gutenberg-DE:「プロジェクト・グーテンベルク」ではドイツ文学の電子テキストが提供されている。
  • Bibliothek – Zeno.org:ドイツ語で書かれた文学、哲学、歴史、文化史、芸術、宗教、自然科学あらゆる分野の図書史料データを網羅しているまさに「デジタル図書館」。
  • Enzyklothek:百科事典の古書デジタルアーカイブ、言語別・分野別の横断検索も可能。
  • Walter Benjamin Digital:ヴァルター・ベンヤミンの草稿の複写データが公開されているデジタルアーカイブ。「小文字書き」でも知られる彼の筆致が閲覧できる。
  • Nietzsche Source:フリードリヒ・ニーチェの批判版全集だけでなく、彼の遺稿や手帳に書き溜められたメモ書きが無料で閲覧できる。ベンヤミンのそれとともに21世紀型の手稿研究の基盤が構築されつつある。

関連リンク

現代美術作家の兄、二藤建人のウェブサイト
www.kentonito.com